Frédérique MOLAY, La 7e femme, Fayard, 2006(フレデリック・モレ『第七の女』)
Thomas NARCEJAC, Une machine à lire : Le roman policier, Denoël/Gonthier, 1975(『トマ・ナルスジャック読ませる機械=推理小説』)
BOILEAU-NARCEJAC, Le roman policier, PUF, coll. Quadrige, 1994(ボワロー=ナルスジャック推理小説』)
Yves REUTER, Le roman policier, Armand Colin, 2005(イヴ・ルテール『推理小説』)
Daniel FONDANÈCHE, Le roman policier, Ellipses, coll. Thèmes et études, 2000(ダニエル・フォンダネシュ『推理小説』)


入荷が終わったと思ったらまた続々とはいってきた。まあいつものことだが読むスピードが全然追いついていない。今回はちょっと趣向を変えてみた。最初のやつを除いて全部小説というより小説論のようなもの。最初はそういうのも読んでおかないといかんでしょう。固有名詞が増えてよい。


で、最初のモレという人の作品だが、今年のオルフェーヴル河岸賞、なんて訳したらいいのかわからないけど、前にも書いたようにオルフェーヴル河岸というのは日本の桜田門みたいなもので、パリの警察のあるところ、この賞は警察関係者が捜査や警察組織の記述の正確さを鑑みて与える賞の2007年の受賞作だ。匿名で送られてきた原稿を審査する。歴代の受賞者についてはこちらを。結構分厚いと思ったら1ページあたりの分量が結構少ない気がする。構成が月曜日から日曜日までの7章立てになっている。警察の調査とか組織のあり方についての表象とかってのには興味があるので、近いうちに読んでみたいな。そういえばいままで読んだ3冊の中にはそういう記述ってほとんどなかった。いま読んでいるティリエスの本の中には出てくるが、これからもうちょっといわゆる探偵とか刑事とかが出てくるやつを読んでみたいな。


次がナルスジャックという人の。この人はピエール・ボワローという人と組んで「ボワロー=ナルスジャック」名義でいろいろ書いている。邦訳も結構あるみたいだ。アングロサクソン系の「問題小説」(roman-problème)からサスペンスに至る流れを説明し、なぜ推理小説が社会を映し出す鏡になっていったのか解き明かす、と裏表紙の説明にある。もしかしてこの「社会を映し出す鏡」という認識がフランスでは強いのかもしれない。まさにマンシェットはその観点から謎解き小説としての推理小説を批判したのだった。こういう考えのもとでは本格推理小説というのは発展しづらいのではないだろうか。日本とか英米ではどうなのだろうか。…と思ってぱらぱらと読んでみたら、こんな記述が。

ロマン・ノワール−−−簡単にいってしまえば冒険小説−−−は、出来事の単なる語りでしかない。これらの出来事は作者によって恣意的に緩く結びつけられている。それは純粋な想像力の産物でしかなく、現実の安売りにすぎない。それに対して、推理小説は、推論のおかげで現実的であり、真の問題を扱っている。(186頁)

つまりマンシェットと逆にノワールなんて戯言にすぎんよな、的なことを言っているのかもしれない。まあ確かにマンシェットの書いているものが現実にありうるかどうかというのは問題だと思うけど、多分二人で何をもって現実というかにかなりの差があるのだろう。この点に関しては僕はマンシェットの方が正しいと思うが。もしナルスジャックのいっている推理小説というものがマンシェットのいう謎解きの小説だとしたら、それが真の問題を扱っているとは考えにくい。まあここで即断してもしょうがない。全部読んでから考えましょう。


次のがボワロー=ナルスジャック。どうやらもとはクセジュで出ていたものらしいので、邦訳があるかなと思い白水社のサイトを見てみたが、見つからなかった。もっとよく探せばあるのかもしれない。目次を見てみると最初に推理小説の起源を説明し、そのあとはジャンルごとに章を区切っているようだ。裏の著書紹介には次のようにある。

想像力の領域、それは小説の領域なのだが、それは無限である。しかし、推理小説は、それが論理によって想像力の世界から合理的な世界へたどり着くことを目指すが故に、自ら超えることのできない限界を課すのだ。

これはボワロー=ナルスジャック自身の文章からの引用。ということは、この人(たち)にとっては合理的な世界というのが現実的なものなのだろうか。多分マンシェットはこういう「現実性」について批判的だったのだろうと思うので、これは両者の言い分は完全に対立するのかなあとか思う。


次の2冊はなんだか教科書っぽい感じのもの。最初のものはこれまた目次によればまず例によって歴史をさらって、そのあと、「謎解き小説」「ノワール」「サスペンス」の三つのジャンルにわけて解説している。以前読んだ『森の死神』ってのはサスペンスになるのかな。これまたぱらぱら見てみると、サスペンスというのはジャンルとしてはほかの二つと比べるとマイナーで、たとえばボワロー=ナルスジャックとかにとっては謎解き小説のサブジャンルになっているらしい。確かにこのボワロにしてもマンシェットにしても、ノワールvs謎解き小説という感じだったと思う。まあここら辺もおいおい。


最後が連続で同じタイトルなのだが、フォンダネシュとかいう人の。パリの大学の助教授のようだが、教科書みたいなものを多く書いている人みたいだ。いままでのやつは比較的新しいのを扱っていなかったみたいだけど、これはベナキスタとか前回買ったダンテクとかが扱われていて、固有名詞を集めるにはいい感じだ。しかも各作家の説明が短くて楽っぽい。なんか広く浅くという感じのようで、全体像をつかむにはどうかという感じだが、まあこういうのもあっていいかなと。