Jean AMILA, La lune d'Omaha, Gallimard, coll. Folio/policier, 1964(ジャン・アミラ『オマハ・ビーチの月』)
Maurice G. DANTEC, La sirène rouge, Gallimard, coll. Folio/policier, 1993(モーリス・G・ダンテク『赤いサイレン』)
Charles EXBRAYAT, Chianti et coca-cola, Champs-Élysées, coll. Club des masques, 1965(シャルル・エクスブラヤ『キャンティとコカコーラ』)
Jean-Christophe GRANGÉ, Les rivières pourpres, Albin Michel, 1998(ジャン-クリストフ・グランジェ『クリムゾン・リバー』)
Jean-Christophe GRANGÉ, L'empire des loups, Albin Michel, 2003(ジャン-クリストフ・グランジェ『狼の帝国』)
Gaston LEROUX, Le fantôme de l'opéra, LGF, 1975(ガストン・ルルーオペラ座の怪人』)
Georges SIMENON, Le chien jaune, Presses pocket, 1976(ジョルジュ・シムノン男の首、黄色の犬』)
Georges SIMENON, Les fiançailles de M. Hire, Presses pocket, 1960(ジョジュル・シムノン仕立て屋の恋』)
Maud TABACHNIK, Un été pourri, Viviane Hamy, 1994(モド・タバクニク『雨の多い夏』)
Jean VAUTRIN, Billy-ze-Kick, Gallimard, coll. Folio, 1974(ジャン・ヴォートラン『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』)


前回で終わりとか書いたと思うが、そのすぐ直後に今度はネットではなくて川のほとりで何冊か買った。僕が住んでいるリヨンでは毎週末に川のほとりにずらっと古本が並ぶ。いわゆる古本市だ。ちょっと驚いたのは毎週毎週どこかから古本をもってくるのではなく、川のほとりに点々と鍵のかけられる本棚のようなものがあり(蓋を閉めると外からは見えない)、そこに本をおいてあるらしい。多分市が管理していて市と業者が契約していてそこに本を置かせてもらっているのだろう。先日初めていってみたら店の人にいろいろ紹介してもらって比較的まとめて買った。こっちはフランスのミステリーがいいっていってるのに翻訳物をどんどん紹介してきて、あげくの果てにはオースターの本をもってきて強烈にプッシュしだした。もはやミステリーですらない。まあでも新刊で買うよりもだいぶ安かったしまあよかったかなと。自宅から遠いのであまり頻繁に通うというのは難しいが今後も行こうかなと思う。


ジャン・アミラ『オマハ・ビーチの月』。この作家の作品は以前『暴力組織』というものを買ったが、しかし今は同じ作家の本をたくさん買うよりいろんな作家の本をつまみ食い的に買った方がよかったかもしれない。だけどこのフォリオ/ポリシエというシリーズはなんか装丁がいいので買ってしまった。このシリーズ自体は新しいものだと思うが、『オマハ・ビーチの月』は1964年の作品。もともとは例のノワール・シリーズから出たものだ。アメリカの軍人たちが眠っている墓地のあるオマハ・ビーチの警備をしている軍曹が主人公らしい。フォリオ/ポリシエのサイトによると、この作品は彼の最も有名な作品らしい。セリーヌの後継者、ジム・トンプソンの遠縁を思わせる文体、らしい。ぱらぱらと見たところセリーヌほどきつそうな文体ではないような気がする。多分フランス人にとってと外国人にとっては「セリーヌ的な文体」のイメージが違うんだろうな。僕にとってはなんといっても語彙だ。仏和辞典じゃ足りない語彙を想像させる。アミラはそんな感じではないと思う。ちなみに巻末にアミラのほかの作品の紹介があって、30冊ぐらいの小説のタイトルが列挙されていたが、その中にSans attendre Godot(『ゴドーを待つことなく』)というタイトルがあった。非常にそそるタイトルだが、残念ながら絶版らしい。


次もフォリオ/ポリシエの作品だが、なんとこのシリーズ第一作目。普通のフォリオシリーズの第一作目は確かカミュの『異邦人』(L'étranger)だったと思うが、まあそれはよい。この人は結構フランスでは有名な気がする。今読んでいるフランク・ティリエスの『死者たちの部屋』(La chambre des morts)ではこの作品をして「グランジェとダンテクはうかうかしてられない」という評があったぐらいだから、まあグランジェは当然としてもダンテクも有名な人なんでしょう。で、例によってwikiによると、フルネームはモーリス・ジョルジュ・ダンテク、1959年6月13日グルノーブル生まれ、若い頃ニーチェドゥルーズの熱心な読者だった。大学で現代文学を学ぶが、すぐどうでもよくなってアルテファクト(Artefact)というロックグループを結成する。当初はEtat d'urgence(緊急状態、の意)という名前だった。これが70年代後半。で80年代は音楽活動を続けて、作家活動に入るのは90年代はじめからだ。今回買った『赤いサイレン』は彼のデビュー作。そのあとユーゴスラヴィアでの戦争で国連の態度に反対する。90年代前半はデビュー作を発表したあとは政治活動をしていたようだ。このときイスラムに改宗しようかと本気で考えていたらしい。1995年に実質上の第2作目を発表『悪の根源』(Les racines du mal)というタイトル。サイバーバンク的なノワールだと。どうやらこの人はポラールとSFを融合させた人らしい。完全にサイバーパンクの作品も出しているらしい。1997年には家族と一緒にケベックに移り住む。そこで第3作目、『バビロン・ベイビーズ』(Babylon Babies)を発表。どうやら完全にSFらしい。wikiの記述によると、この作品は非常に論争的、端的にいうと多くの読者ががっかりしたらしい。そのあとも作品を数多く発表するが、なんかこのwikiの筆者は気に入らないらしい。ぼろくそにいっている。まあミステリーとはあまり関係なくなってきているので、いいでしょう。だけどちょっとだけ付け加えると、彼は政治的な発言を数多くしていて、とりわけカナダの死刑制度の復活、ブッシュ大統領外交政策を評価していたりする。そういうこともあって一時期極右と見なされたことがあったらしい。まあこんなにぼろくそにいわれるのも、多分デビュー作の『赤いサイレン』が素晴らしかったからなのだろう、と思うことにする。しかしかなり長い。600ページぐらいあるな。ちなみにオフィシャルサイトがあるのだが、確かに今まで見たフランスのミステリー作家のオフィシャルサイトとは様子が違う。


エクスブラヤ。カタカナ表記は臨機応変に。『キャンティとコカコーラ』、これは邦訳もあるようだ。だが絶版になっているようだ。とはいえ翻訳があるから書評もある。こちらにはいくつかエクスブラヤの作品の書評があるが、それによるとロメオ・タルキニーニ警部が主人公の作品の3作目らしい。推理を楽しむというよりもトタバタ劇で笑わせるというタイプのものらしいな。テンポ良く物語が進んでゆく。僕のフランス語の能力でこのテンポがつかめるだろうか…。うう。まあ分厚くてごつい作品を読んだあとに読むのもいいかもしれない。


次の2冊がグランジェなのだが、多分グランジェぐらいになると古本屋とかでは投げ売りするぐらいあるのだろう。ちなみに両方とも3ユーロだった。500円しないぐらいかな? 両方とも邦訳がある。やっぱり人気作家なのだろう、3月1日に新刊が発表されるが、これもすぐ翻訳されるのだろうか。僕ももう既に3冊買ってしまったので早いところ読んでしまいたい。しかしみんな厚いんだよな…。まあそれはいいとして、この人の作品というのはいわゆるミステリーということにはなるのかもしれないが、たとえばフランスでポラール好きを自認している人が読むのだろうか。まあものすごく売れたらしいから、そういう限定なしに読者を集めているのだろう。しかし多分これはいえると思うのだが、彼の作品について語る語られ方は、ほかの「ポラール」に緩くではあれカテゴライズされる作家たちと比べて、ジャンルとの関係で語られることがあまりないような気がする。まあ読む前にごちゃごちゃ考えてもしょうがないのだが。


オペラ座の怪人』はまあいいでしょう。ちなみに著作権が切れているからどこかに原文がアップされているかなあと思って探してみたけどFauteuil hanté(『呪われた肘掛け椅子』)しかなかった。


次二つはシムノン。メグレものとそうでないもの一冊ずつ。なんか古本屋のおじさんはものすごくプッシュしていた。「『仕立て屋の恋』は映画になったんだよ! 見たことある?」みたいな感じだった。確かルコントのやつは見たことがあったような気がするが、全然覚えていない。ちなみに表紙に主人公の俳優さんの写真が写っている。まあとにかく最初は古典を読め、ということなのだろう。1903年2月13日ベルギーはリエージュ生まれ。1989年9月4日にローザンヌで亡くなる。うまいことフランスをさけている。2月13日生まれなのだが、金曜日だったので縁起が悪いってんで12日生まれということで役所に届け出たらしい。ものすごい多産な作家ということだ。エクスブライヤが100作ぐらいだったらしいがシムノンは小説だけで200作品近く書いている。ベルギーで最も外国語への翻訳が多い作家らしい。wikiの記述が長いので読む気しないのだが、作品についてちょっと書いてあるところで、現在の作家たちの違いについて触れていた。まあ簡単にいうと現在の作家たちと比べてなぞが結構単純だということらしい。謎そのものよりも、犯罪が生まれては解決されてゆく無限の連鎖、業のようなものだろうか、そういうものに焦点を合わせているとのこと。これを広げて考えると、要するに謎、ってものは単独ではあり得ない、それを成立させるような場、人間の業だったり社会だったり、そういうものにより興味があったということだろう。もしかしたらこういった社会や心理的な条件に対する依存から、謎が解き放たれていうという過程が推理小説の歴史の中で読み取れるのかもしれない。


次。モド・タバクニクってカナ表記したが、こういう発音するかどうかはわからない。モド(モード)という名前は確か女性の名前だったと思う。僕の知り合いにもそういう名前の女の子がいた。確かアジア系のフランス人だった。1938年11月12日パリ生まれ。こんな顔してる。学生時代は運動療法について学んで学位をとり、卒業後17年にわたってオステオパシー、つまり骨の障害についての専門家として活動する。まあ要は医療関係者だったということかな。で作家として本格的に活動し始めるのは90年代に入ってからだ。今回買った『雨の多い夏』は、ボストンで男の人が何人も喉を切られ性器を切り取られて殺されるという連続殺人事件が起きるという話。グッドマンという刑事が捜査をする。フランス語なのにアメリカが舞台なのか。そこら辺の違和感は読者にはないのだろうか。翻訳とフランス語原文をあまり区別しないということも関係しているのだろうか。ついでなので出版社について。ヴィヴィアンヌ・アミ。まあ多分ヴィヴィアンヌ・アミさんがつくったのだろう。1990年にできた出版社だからかなり新しい。結構ミステリーにも力を入れているらしいが、中でも一番有名な作家はフレッド・ヴァルガスだろう。この人の作品は多分ほとんどがこの出版社から出ていると思う。こんな人。かなり美人だと思う。この人の本は注文したのでまあそのときにちょっといろいろ調べようと思う。この人はどこの本屋にいってもかなりの量置いてあるので、もう相当な人気作家だろう。なんかタバクニクの話じゃなくなってしまった。


最後はヴォートラン。確か前に「ヴォトラン」と表記したが、ヴォートラン名義で翻訳が出ていたので今後こちらで。1933年5月17日にナンシーの近くで生まれる*1。学生時代映画を学んでいて、1955年にボンベイでフランス文学を教えることになるが、そこでカイエ・デュ・シネマに文章を書いたりしている。1957年にフランスに戻ってきてしばらくは映画の仕事を続ける。ヴィンセント・ミネリジャック・リヴェットとかといっしょに仕事をする傍ら、自らも短編映画を撮影したりする。長編も5つ撮った。ここら辺の映画の仕事をするときは彼はジャン・エルマンという本名を使っていた。で70年代に入って作家活動を始めるが、なんかいろんな賞を獲ることになる。ゴンクール賞とかミステリー批評賞とかから、よく知らん賞まで獲っている。映画の分野でマリリン・モンロー賞というのも獲っている。どんな賞かは知らん。こちらにいろいろ賞が列挙されている。ミステリーの分野においても70年代にマンシェットとともにロマン・ノワールを発展させたという業績がある。とはいえヴォートランをノワールの作家、というにはあまりにもいろいろなジャンルの作品を書いているようだ。とはいえ今回買った『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』はあらすじとかを見てもノワールっぽい。パリ郊外の団地で動機のない連続殺人事件が起こるという話。カスタマーレヴューを見てもどうやら結末もちゃんとしているようだ。結末がちゃんとしているという点でもしかしたらマンシェットとかにしてみたらノワール的じゃないのかもしれない。まあ結末が破綻してればいいということでもないだろうが。

*1:こちらでは1月1日生まれとある。